マジックリンを使った安全なチェーン洗浄のやり方

DIY
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綺麗なチェーンと汚いチェーンとでは程度によっては10w程度の差が出るとのことです。体感で、30km/hが28km/hになってしまう感じでしょうか。

初心者
初心者

それなら簡単に洗浄したい!

となるかと思いますが、灯油やパーツクリーナー、チェーンディグリーザーはとにかく臭い。子どもが小さいので溶剤の臭いは気になります(嫁さんの目も気になります笑)。また、残った液の処理も大変です。

そんな方にはマジックリンを用いたチェーン洗浄がオススメです。

初心者
初心者

けど、マジックリンをつかっても大丈夫?


となる方も多いと思います。事実、マジックリンはダメゼッタイ!という方も多いです。ですが材料を理解すればリスクをほぼゼロにできます

この記事ではマジックリンを用いた安全なチェーン洗浄のやり方を紹介しますので、参考にして頂けるとおもいます。ただ、ミッシングリンク(クイックリンク)の使用が前提です。

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パーツクリーナー・灯油の問題点

一般的なチェーンの洗浄方法には、パーツクリーナーや灯油を容器に入れ、ひたひたにして浸け置きする方法があります。この処理の問題点は廃液の処理が大変ということ。

処理がとにかく面倒

キッチンペーパーに染み込ませて捨てる方法もありますが、危険物管理的にはかなり危険です。自然発火の可能性はかなり低いと思いますがリスクがあるということを理解する必要があります。

溶剤系チェーンディグリーザーの問題点

溶剤系チェーンディグリーザーの問題点ですが、こちらも結局は溶剤ですので、非常に臭いということです。

成分は高沸点の炭化水素系溶剤と界面活性剤です。

洗浄力は抜群!

洗浄力は抜群なものの、結局はパーツクリーナーや灯油の域を出ていないので、臭いし、処理が面倒な部分はあります。

水と混ざるように界面活性剤が入っていますが、トイレに流すのは環境的にどうなんだという気になります。

無溶剤系チェーンディグリーザーの問題点

それならということで、無溶剤系のチェーンディグリーザーの出番ですが、無溶剤系は洗浄力が今ひとつという問題があります。

成分は基本的に水と界面活性剤となるので、溶剤系と比較するとどうしても洗浄力が劣っていると感じてしまいます。

ただ環境負荷的には優れているので、こういった製品がこれからの主流になることでしょう。

マジックリンのメリット

マジックリンのメリットとしては、やはりどこでも手に入り安いということだと思います。ただし、無溶剤系のディグリーザーと成分はほとんど変わりません。一点異なる点としてはアルカリ剤が入っているところでしょうか。

アルカリ剤が含有(花王HPより)

また、このアルカリ剤がマジックリンをチェーン洗浄に用いてはいけないとされる主な理由です。では何故アルカリ剤をチェーン洗浄に用いてはいけないのでしょうか?

マジックリンをチェーン洗浄に用いてはいけない理由

マジックリンでのチェーン洗浄がそこそこ流行ったことで、それに併せて「ダメ!NG!」という意見も見るようになりました

メーカー(シマノ)も錆び落とし等のアルカリ剤の適用はNGとしています。

シマノユーザーマニュアルより抜粋

シマノがアルカリ性はダメって言ってる!!だからアルカリ性のマジックリンはダメ!が、使ってはいけない理由です。ただ、文面からすれば「錆おとしがダメ」とされているだけな気もします

ただ、何故アルカリ性(または酸性)はダメなのでしょうか。

アルカリ性がチェーンにダメとされる理由

有名な主な理由は破損(割れる)するからとのことです。ではなぜ割れるのでしょうか。

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原因は各所で語られておりますが、水素脆化とされています。水素脆化と聞くと基本は酸性で起こる現象ですが、アルカリ性でも類似の現象(厳密には異なる)が起き、アルカリ脆化とよばれています。ですので、上記のような錆おとしなどのアルカリ性、あるいは酸性の洗浄液を使用するなとされています。ただ、これは水酸化ナトリウムでの場合がほとんどです。(一部アンモニア等)。

割れが発生する原因の詳しい説明は割愛しますが、酸やアルカリの液に金属を浸すと、水素や水酸化物イオンが金属材料内部に入り込んでしまい割れの原因となるというものです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcorr/62/3/62_114/_pdf

この論文は無理やり水酸化ナトリウム溶液中で電位を印加して水素をチャージしています。


これがマジックリンの洗浄とイコールなのか?というところが焦点になります。

アルカリ剤とマジックリンは同じ?

一口にアルカリ剤といっても多数の種類があります。それを一括りで片付けてしまっていいのでしょうか。

先述の錆おとしに用いられるアルカリ剤は水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)のような成分です。アルカリ脆化が問題となったのは苛性ソーダなので避けられて当然です。ではマジックリンのアルカリ性は一体何によるものなのでしょう。

SDSを見てみますとモノエタノールアミンがアルカリ剤です。pHは12で、水酸化 ナトリウムのpH14と比較して低いです。(マジックリンの種類によっては異なったアルカリ剤が使われています)

マジックリン除菌プラス業務用SDSより

さらにアルカリ脆化が発生するような環境は高温等の各種反応や拡散が発生しやすい状態です。先述の割れたチェーンがどのような洗浄を行っていたかは不明ですが、アルカリ脆化だけで割れたとは考えにくいです。

アルカリ脆化だけでなく、チェーンの隙間に残存したアルカリ成分がチェーン油を分解、摩擦が増え、発熱、アルカリ成分が濃縮&脆化&破断というプロセスが提唱されているようです。

ここで、モノエタノールアミンと水酸化ナトリウムの違いが重要になるのですが、モノエタノールアミンは沸点170℃の揮発性の物質であるということです。

三井化学HPより

つまりアルカリ成分は加熱により揮発してしまうため濃縮しにくいことを示しています。アルカリ脆化は極めて発生しにくい状態となるはずです。


ただ、上記プロセスが本当におこったとして、アルカリ性では必ず脆化が発生するのでしょうか。

そもそもアルカリ性で絶対に脆化すると言えるのか?

工業上アルカリで洗浄(アルカリ洗浄)するということは最もポピュラーな洗浄工程(脱脂工程)といって差し支えありません。歴史も古いです。ですのでデータもたくさんあります。

そして工業的に用いられるアルカリ洗浄は〜70℃程度に加熱されて行われます。下記に酸洗後にアルカリ脱脂を行い水素脆化率を調べたデータを載せますが、加熱することで水素を追い出すことができます

ミスミHPより

むしろ工業的には水素脆化を防ぐためにアルカリ脱脂をしている工程があります


つまりマジックリンを使って洗浄する場合、マジックリンを加熱したり、後の工程でお湯に浸漬すれば水素脆化の可能性をほぼゼロにすることができるわけです。


そもそもマジックリンを使ったチェーン洗浄レベルでアルカリ脆化が発生するというのは眉唾です。先述の通り基本的には酸性環境下、液浸漬中での現象だからです。一般的なマジックリンの洗浄方法はチェーンにマジックリンを吹き付けブラシでゴシゴシだと思います。


また、冒頭のアルカリ洗浄が原因で割れたとされるチェーンですが、本当にアルカリ脆化で割れてるかどうか不明です。破断面を見ればある程度破損原因を特定できますが、そのようなデータはありません。また、アルカリ洗浄剤と言っていますがどんな洗浄剤かも洗浄方法もわかりません。

新潟県工業技術総合研究所HPより

みなさんかじったような知識でアルカリ性のチェーン洗浄は水素脆化!マジックリンはNG!とおっしゃっていますが、流石にエビデンスが少なすぎます。他の破損要因も十分に考えられるのにアルカリ脆化が原因と決めつけている感があります。


過去アルカリ性が原因で割れが発生して問題が起きたトラブルは水酸化ナトリウムやアンモニア、硝酸塩の高濃度、高温環境かつ、材料に応力(力)がかかっている状態で発生しています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcorr1954/9/5/9_5_208/_pdf

https://www.iic-hq.co.jp/library/pdf/034_03.pdf

一方チェーンはどうか?洗浄が不十分であれば、溶液の残存はあるでしょうが、元々のpHは水酸化ナトリウムより小さいです。また、温度は常温です。

応力も常にかかっているわけではありません(ある程度の張力や製造時の残留応力はありますが)。先述の環境とは大きく異なり、環境的には低負荷であることが考えられます。


リスクがあることはやらない方がいい!だからマジックリンによるチェーン洗浄はやらない方がいい!」という意見もありますが、リスクがあるかどうかも怪しいですし、リスクがあったとしても隕石が落ちてくるかもしれないから地下シェルターに住むという人はいないでしょう。

大型タイプ(40〜50人)
(株)アースシフトHPより


汎用性が非常に高い洗浄剤が家にあればそれを利用するのは普通のことです(高いとか安いとかではありません合理的だからです)。マジックリンを用いたチェーン洗浄をバカにする方もいらっしゃいますが、材料の特性を理解して使えばリスクは無視できます


以上からマジックリンを用いた安全なチェーン洗浄のやり方を記載します。

マジックリンを用いた安全な洗浄方法

先ず500mlペットボトルを用意して、熱湯を1/4 くらいまで入れます。そこにマジックリンの液を30cc程度入れます。

熱湯を使うのは先述の通り、洗浄力を高めるためです。そこに取り外したチェーンを投入し軽く振ります。

振りすぎて手ぶれが(笑)

汚れが酷い・・・数分浸け置いたり振ったりしたら、水を捨てて再度水を投入&シェイク→捨てるを2〜3回繰り返したら完了です。この時気をつけたいのが、確実にチェーンの隙間のアルカリ成分を除去することです。

マジックリンの洗浄後の水をお湯にしたり、中性洗剤を混ぜる(濡れ性・浸透性の向上)等の工夫をしても良いかもしれませんが、チェーン程度の隙間であれば経験上水で十分洗浄できます


取り出したらウエスで拭き上げた後、ドライヤーで乾かします。アルカリ成分の残存や水素脆化が気になる方は火傷するレベルでの乾燥をオススメします。モノエタノールアミンの沸点は170℃ですが、そこまで加熱しなくても揮発させることができるでしょう。(ドライヤーの熱風は100℃近いですし、そもそもほとんどが水と置き換わっているでしょう)

水系の洗浄ですので乾燥は確実に


火傷に注意しつつ乾かしたら完成です。

マジックリンでもピカピカになりました。この後は、チェーンオイルをさせば完了です。

ただ水系の洗浄ですので、万が一水が残っていたら怖いですので、水置換タイプがおすすめかと。

せっかくのチェーンを外して洗浄したので、チェーンに吹き付けた後、一コマ一コマ動かして、十分に浸透させます。

可動部を動かして浸透させます。

浸透後はある程度(10数分〜数時間)放置して、ウエスで拭きあげます。

放置時間は、油膜の状態をコントロールできるとのことです。長いとコッテリ、短いとサラット。ホントかよと思いますが、自分は10数分のサラット仕上げにしておきました。

めちゃめちゃ動きが軽くなりましました。

アルカリ洗浄のメリット

マジックリンを用いたこのアルカリ洗浄方法には特有のメリットが存在します。それは洗浄能力が高いということです。

溶剤系のチェーン洗浄は汚れ成分を薄めるだけで完全な洗浄はできません。工業的にも予備脱脂として用いられることが多いです。

また、マジックリンを用いたチェーン洗浄のメカニズムとしては乳化と鹸化があります。乳化は界面活性剤で油成分を取り込んでミセルを造ること。鹸化は油成分(エステル)とアルカリが反応して石鹸を造ることです。

https://mitsu-ri.net/articles/remove-greaseより

中性タイプの無溶剤系洗浄剤には鹸化は期待できません。また、ワックス系の油に効果的なのは鹸化です。

アルカリ性であるマジックリンを用いた洗浄方法は鹸化による洗浄効果が期待できます。そのためワックス系のチェーンルブに対して有利です。

洗浄が強力ということは、その後使用するチェーンオイルの性能を発揮しやすいということです。

結論

色々記載しましたが、簡単にまとめると

  • マジックリンがチェーンにNGなのはアルカリ性だから
  • アルカリがNGなのは水素脆化(アルカリ脆化)が起こるから
  • アルカリも加熱すれば水素脆化は起きない
  • 加熱しなくてもそもそも脆化が起こるような環境じゃない(なさそう)
  • 水洗浄と乾燥が大事


以上となります。マジックリンも上手に使えばチェーン洗浄に普通に使えるということです。

最後に

この方法であれば、パーツクリーナーでなくても、チェーンディグリーザーじゃなくても、マジックリンで十分綺麗になります。新たにケミカルを購入しなくても大丈夫です。

パーツクリーナーと違い、水道に流せますし洗浄頻度を上げれます。(臭くないのもデカイ)ただ、長期使用のノーメンテチェーンにはマジックリンは役不足かと。そういった場合は予備脱脂として溶剤系ディグリーザーを使うのがオススメです。

冒頭にも記載しましたが予備脱脂にはもってこい

私はKMCのX11SL(シルバー)でこの方法を試しましたが、シマノのシルテック採用品(HG901等)にも問題なく使えるはずです。仕様上推奨はされていませんがシルテックに採用されているNi-PTFEめっきはそんなにヤワではありません


金型へ採用されている場合は普通にアルカリ洗浄されてたりします。アルカリ洗浄というのはそれほど一般的な洗浄方法なわけです。

アルカリ剤=マジックリン=チェーン洗浄にはNG!ではなく、ダメな理由を色々考えてコスパ良くサイクルライフをエンジョイしていただければと思います。

コメント

  1. GOTAL-横山 より:

    ブログ拝見しました。
    いくつか補足をさせていただければと思います。水素脆化とアルカリ脆化は全く違う原理で発生します。そのためアルカリ性では水素脆化は発生しないと考えられています。
    アンモニア水の水素脆化に関してはかなり特殊で、NH3 + H2O ⇄ NH4+ + OH– というアンモニアが水と化合する際に水素イオンが発生し影響する様です。(アンモニウムと水酸化物に変化このためアルカリ性となる)

    鹸化ですが、これは鉱物油や合成油では鹸化することはありません。鹸化には脂肪酸が必要で、これは植物油や動物油にしか存在しません。(一部合成油は除く)家庭用アルカリ洗剤などは動植物油を落とすことを前提としているため(食用で鉱物油を使うことはない)鉱物油などの洗浄ではイマイチ落ちないと感じるのはそのためです。 また家庭用のため高温の温度で使うことは想定しておらず、界面活性剤も40℃前後で一番活性するものが選ばれています。(高温では活性が落ちてしまう)。

    残留応力ですが、これは曲げ加工以外にも発生しています。チェーンではプレート部分の生産には安い物だとプレス加工で作られますが、このプレス時に残留応力が残ります。また、高級なものですと冷間鍛造などで作られますが、これでも残留応力が残ります。

    以上補足でした。

    定期的に当社ブログも更新しますので是非覗きに来てください。

    https://gotal.tokyo

    • 酢 より:

      GOTAL横山様
      補足説明ありがとうございます。

      自分もアルカリ性で水素脆化というのはちょっとわからなかったので
      引っかかっていました。
      また、上記の論文は電位を印加して水素をチャージしていましたね。
      そのようなことをしなければアルカリ性で水素脆化することはないということですね。
      内容を修正させていただきます。

      鹸化、残留応力に関してもありがとうございました。

      1点お考えを伺いたいのですが、
      泉チェーンさんのアルカリ洗浄でチェーンが破損したという下記の記事に関しては
      いかがお考えでしょうか?
      https://note.com/izumichain/n/nf08ab0b79973
      この記事が定説となり、アルカリ洗浄NGという意見が主流です。
      そしてコレを根拠にアルカリ洗浄剤(マジックリン含む)でのチェーン洗浄はバカよばわりされている部分もあります。

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